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広島家庭裁判所福山支部 平成3年(少ハ)1号 決定

少年 F・A(昭46.1.27生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

(申請の要旨)

本人は、平成2年8月24日、広島家庭裁判所福山支部で中等少年院送致の決定を受けて広島少年院に収容され、同年9月25日、少年院法11条1項ただし書による収容継続がなされたものであるが、平成3年8月23日をもって収容期間が満了となる。

本人は、人吉農芸院で大型特殊免許を取得するなど、少年院内における成績は概ね良好で、平成3年5月16日には1級上に進級して処遇の最高段階に達しており、このまま順調に経過すれば、出院準備期の教育を予定どおり3か月で終えるものとして、希望日を平成3年8月20日として仮退院申請中である。

しかしながら、〈1〉本人は、困難な状況に遭遇した時などには自分の力で解決しようとする気力が依然として不足しており、出院後の社会生活に不安が残ること、〈2〉本人は、中学校3年生のころから家庭裁判所等の保護的措置を受けながらその効果が現れないまま、19歳を過ぎてから少年院送致となったものであって、父母は、これまでのことを反省して、本人の出院後の生活について関心を持っているものの、少年の非行の原因が、父母の葛藤及び躾不足等に起因するものと思われる以上、父母の保護能力にはあまり期待できないこと、〈3〉少年の妻は離婚の意思を有しており、本人は出院後話し合って結論を出そうと考えているが、その結果によっては、本人の性格からして自暴自棄的な行動をとるおそれが強く、相当の期間専門的指導が必要であること、などの問題点が存する。

以上の点から、本人については、平成3年8月下旬ころまで収容教育したうえで、仮退院させ、その後約3か月間を保護観察の期間としたく、平成3年11月24日までの収容継続の決定を求める。

(当裁判所の判断)

1  本人は、両親不和のために安定した家庭生活が得られず、中学校3年生の夏ころから不良交遊、シンナー遊びなどを開始し、そのころ、ガソリン盗、原付盗の非行を犯したことで、昭和61年2月21日当裁判所で保護観察処分を受け、間もなく、中学校を卒業したものの、定職に就かず、シンナー遊びも止まないまま、少年鑑別所に入所後、試験観察を経て、昭和62年2月27日当裁判所で、毒物及び劇物取締法違反保護事件により再度保護観察処分を受けた。

しかし、本人は、その後も、保護観察の指導を十分に受けず、転職を繰り返した後、平成2年1月ころから採石場で一応稼動していたものの、同年4月ころ、友人に誘われて、覚せい剤の使用を覚えるや、以後20回位使用し、そのため平成2年8月24日当裁判所で、覚せい剤取締法違反保護事件により中等少年院送致の決定を受けた。

2  広島少年院における本人の生活態度は、概ね良好で、教官の指示にも素直に従い、日課にも真剣に取り組んでいて、現在は1級上に進級して処遇の最高段階にあり、落ち着いた生活を送っている。この間、本人は、平成3年1月8日に人吉農芸院へ移送となって職業訓練を受け、同年3月22日大型特殊運転免許を取得している。

ところで、本人の性格面については、従前から、やや受け身的で、自主性にも乏しいこと、困難な状況に遭遇したときなどに、自分の力で解決しようとする気力が不足していることが指摘されてきており、更生保護委員の面接の際にも、「悪い友達に誘われると困るな。」との気持ちを漏らしていたというのであって、出院後の社会生活に全く不安が残らないわけではない。

しかしながら、他面、本人は、1級上に進級後は物事を前向きに考えるようになり、健全な生活を送ろうという意欲が芽生え始め、大型特殊運転免許を取得したことから自信を深めてもいて、現在の適応状況や処遇効果は一応評価されている。

また、本人は、当庁家庭裁判所調査官○○による面接時において、「出院後、悪い友達に誘われても、断る自信はある。」と明言し、その理由として、「これまでの少年院生活は厳しく、今後同じ事を繰り返したくないから。」と述懐する一方、「少年院生活で根気がついた。免許取得は苦しく、止めようと思ったこともあったが、頑張ったら取れたので自信がついた。」などとこれまでの院内生活を積極的に評価しようとする姿勢も窺われる。さらに、今後の注意点として、「積極的になれない部分がある。しんどそうな作業に直面したとき、止めたくなったり、人任せにしたくなる。」などと指摘し、比較的冷静に自己を見つめることができるようになっているものと評価できる。そして、本件審判における本人の発言、態度をみても、強い更生意欲を有するに至ったことが看取されるのであって、従前から指摘されていた本人の性格上の問題点は多分に改善、解消されてきたものというべきである。

3  次に、退院後の受入れ体制についてみるに、実父母は、現在離婚しているものの、本人の今後については、相談、協力しあって対処しようとしており、ともに本人を引受ける意欲がある。これは、実父母間の葛藤が本人の非行の遠因をなしたことや前件覚せい剤事犯の当時、本人をその妻の実家に預けたままで、監護を怠っていたことへの反省から、生じているもののようであり、そのためもあってか、実母は、これまで毎月2回ほど面会に出向いていた。

実父母間の相談の結果、本人の身の回りの世話などに便利だからということで、最終的には実母が本人を引取る予定であるが、このことは本人も了解している。

以上のとおり、本人の非行の遠因が実父母にあったことは否定できないものの、実父母は、この点を認識しつつ、本人の更生のために尽力しようとしているのであって、現段階においては、その保護能力に期待してよいものと思われる。

また、本人は、今後、入所前から勤務していた採石場で再び就業する予定であるが、この職場は、過去、仕事が長続きせず、瀕回転職傾向があった本人にしては比較的定着して稼動していた職場であり、在院中に取得した免許を仕事に生かせるなど、本人に適しているものと考えられる。

4  本人は、平成2年1月に結婚し、妻との間に現在1歳になる長女をもうけているところ、同年11月ころ、妻から離婚の意思を表明された。本人は、当初、妻に翻意を促したものの、妻の離婚の意思は固く、ついには本人も諦め、平成3年6月には、面会に訪れた妻に対し、出院後に正式に話し合う旨を伝えるに至った。現在、本人としては、妻との離婚はいたしかたなく、また、妻が希望するならば、長女の養育を妻に任せ、養育費も支払おうと考えている。

確かに、現段階では、本人と妻の間で、離婚に関する具体的な話し合いはなされておらず、今後話し合いが進展するなかで、本人が辛いおもいをすることは想像に難くないのであって、これから逃避するために再び罪を犯す可能性も否定できないところではある。しかしながら、本人は、辛い体験を避けられないことと覚悟しており、すでに成人に達している本人としては、自力でこれを克服する必要もあるものと考えられるのであって、本人にその意欲がある以上、今後さらに保護観察による指導を加えることには躊躇せざるを得ない。

5  以上のとおり、すでに成人に達した本人につき出院後さらに保護観察を必要とする特別の事情が存するものとは認められないのであって、更生に意欲を示し、矯正教育の効果が少なからずあがっている現在の状況に照らすと、本人の更生意欲を信頼し、本人を社会に復帰させ、社会的訓練を受けさせることにより更生の道を歩ませることが、最も妥当であると思料される。

以上の次第であるから、本件申請を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 松藤和博)

〔参考〕収容継続決定申請書

広少発第561号

平成3年6月28日

広島家庭裁判所福山支部 御中

広島少年院長○○

収容継続決定申請書

氏名 F・A(昭和46年1月27日生)

本籍 広島県府中市○○町××番地の×

保護番号 平成2年少第×××号 覚せい剤取締り法保護事件

上記少年は、平成2年8月24日貴裁判所において中等少年院送致の決定を受け、当院に収容中のところ、平成2年9月25日少年院法第11条第1項ただし書きによって、平成3年8月23日まで収容を継続する決定をし、引き続き収容中のものであります。

ところで、本少年は、本年5月16日1級上に進級し、処遇の最高段階に達しておりますが、下記の理由で、今後なお約2ヵ月間(平成3年8月下旬頃まで)の教育期間が必要と見込まれるうえ、更に3ヵ月間程度の保護観察が必要と考えられますので、平成3年8月24日から平成3年11月24日までの間、収容を継続すべき旨の決定を得たく、少年院法第11条第2項の規定により申請いたします。

1 当院では、家庭裁判所、少年鑑別所の意見、過去の非行の態様等を総合的に検討して、別添1の個別的処遇計画表を作成し、教育予定期間を12ヵ月とした。これに基づき指導した結果、現在までの成績の概要は、別添2の成績経過記録表のとおりであるが、人吉農芸学院で大型特殊免許を取得し、概ね良好な成績で推移している。従ってこのまま順調に経過すれば出院準備期の教育を予定通り3ヵ月で終えるものとして、希望日を平成3年8月20日として仮退院申請中である。

2 本人の問題点として、別添広島少年鑑別所作成の再鑑別結果通知書によると、困難な状況に遭遇した時などには自分の力で解決しようとする気力が依然として不足していることが指摘されており、出院後の社会生活に不安が残る。

3 本人は、中学校3年生の頃から家庭裁判所等の保護的措置を受けながらその効果が現れないまま19歳を過ぎてから少年院送致となったものであるが、父母は、これまでのことを反省して少年の出院後の生活について関心を持っているものの、少年の非行の原因が、父母の葛藤及びしつけ不足等に起因するものと思われる以上、父母の保護能力にはあまり期待できないと思われる。

4 また、少年の妻は離婚の意志を示しており、少年は出院後話し合って結論を出そうと考えているが、その結果によっては、本人の性格からして自暴自棄的な行動をとるおそれが強く、相当の期間専門的指導(保護観察)が必要である。

5 以上、本人の問題点、保護者及び妻との関係等を総合的に判断すると、少なくとも3ヵ月は保護観察に付して経過を見守る必要がある。

添付書類(写し)

1 個別的処遇計画表・・・1部

2 成績経過記録表・・・・1部

3 環境調整報告書・・・・1部

4 再鑑別結果通知書・・・1部

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